その手の中に、それぞれの月日 #01
公開日:2026年7月8日 更新日:2026年7月8日

その手の中に、それぞれの月日。
お財布の数だけ、刻まれた記憶がある。
傷のひとつ、色艶の変化、お札を納める所作。
道具は、使い手の生き方を映し出す鏡かもしれません。
異なるお財布、異なる人生。
私たちがお届けしたお財布と、お客様が共に紡いできた日々の記録。
旦那様と、いつも一緒に。
元浅草アトリエに「こんにちは」と柔らかな笑顔のお客様。
「こちらのお財布を使っているんです」と、ヴァレンシアのLF長財布(ボスコグリーン)をそっと見せてくださいました。艶が増した革には、毎日の暮らしの時間が静かに重なっていて、カバンの中でついてしまったボールペンの跡さえも、「それも思い出なの」と大切に受け止めてくださっているのが伝わってきます。
今日は「もう少し小さめのお財布が欲しくて」と、久しぶりに足を運んでくださいました。

店内でいくつか手に取りながら、ふとお客様が鞄の中を探して、もう一つのお財布を取り出されました。
「もう一つ持っていてね。これは旦那のなんだけど、今年亡くなってしまったのよ」
そう言って見せてくださったのは、ブライドル二つ折りカード札入れ。長く使われているのに、きちんと手入れをされてきた革は凛としていて、とても綺麗でした。
「彼はね、磨きながら大切にしていたの。私もこの前、磨いてあげたんだけどね」
指先で革を撫でる仕草に、言葉にしきれない想いがにじみます。

カードケースとして使われているそのお財布を、お客様は静かに握りしめて、こう教えてくださいました。
「彼が大切にしていたこのお財布を、私が持ち歩くことで…いつも一緒にいる気がするの」
故人の持ち物をどうしたらいいのか、迷われる方からご相談をいただくことがあります。けれどこの日のお話を聞いて、
「想う気持ちと一緒に、そっと持ち歩く」
そんな選択も、きっと優しくて温かな形なのだと、改めて教えていただきました。
この記事に登場したお財布


