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『栃木レザー』見学レポート

- 前編 -

革の生まれる場所

皮(=スキン、ハイド)は どのように革(=レザー)になるのでしょうか。私たちが革製品を手にするまでには、農家、食肉加工業、原皮卸業、タンナー、革問屋、メーカー、小売業、と大きく分けてもこのように長い年月を掛け、いくつもの手を経ているのです。(実際にはさらに細かな専門業者が関わっています!)
特に『タンナー(革鞣し業)』は皮を革に生まれ変わらせる、レザーの生みの親。
山藤の製造スタッフも、普段は紙に包まれ綺麗に巻かれた革しか目にする機会がありません。
革はどのように作られ、どこから来るのか。革小物をただ製造・販売するだけではなく、革の歴史と革のこれからを考える企業でありたいという想いから、7月某日、販売スタッフを含む山藤全社員で革の生まれる場所を見学して参りました。
一般には公開されていない工場内を特別に見学させていただいた為、前編・後編と二回に分けて、詳しくレポート致します。
少し長いですが、ぜひご覧ください。

『栃木レザー』

栃木駅から徒歩10分ほどにある栃木レザー株式会社は、高品質な「ヌメ革」で知られる日本でも有数のタンナーです。
栃木レザーでは自然素材のみを使用する「植物タンニン鞣し」を行なっております。
効率化を敢えてしない、昔ながらの「人の手」にこだわり、通常の2、3倍も時間を掛けて、ゆっくりと丁寧に鞣された革は、柔らかくも強く、固く扱いにくいと言われたヌメ革の常識を変えてきました。
革の表情を消さず、革の変化を愛する、自然の流れの一部のような革製造の現場は、「持続可能性」という山藤の大切にするスピリットにも通ずるところがあります。

訪れた日は猛暑で、工場内は立ち込める熱気と「生きていたもの」が加工される匂いが充満しており、きつい重労働であることが一瞬で伝わってきました。栃木レザーの作業工程は20にも及び、各部署ごとに経験を積んだプロフェッショナルがいます。仕事中の鋭い真剣な目と、挨拶をすると返ってくる素朴な笑顔が印象的でした。

まずはぜひ工房の音や雰囲気が伝わる動画をご覧ください。

栃木レザーを楽しむために、
職人がブックカバーを仕上げました。

革の個性や経年変化を楽しんでいただくために、シンプルなブックカバーを製作しました。 末長く使って頂く為に、丈夫なキャンバス地のブックカバー”カバー”としおりを一緒にお届けいたします。

《栃木レザー》ブックカバー 9,900円〜

前鞣し

栃木レザーでは、牛皮は主にカナダから、豚皮は国内から仕入れています。原皮は腐らないよう塩漬けにされています。
牛は「ヌキ(英:ステア)」と呼ばれる去勢された雄の成牛の革で、面積の大きさとしなやかさを備えています。
黒毛の牛は、毛根の色が残り綺麗に染まらない為、茶毛の牛を選び仕入れているそう。原皮のままでは毛や汚れがついたままである為、鞣し作業の前に水洗いや脱毛、フレッシング(脂肪除去)などの「前鞣し」という作業を行います。


01

原皮の水洗い

塩漬けされた原皮は「タイコ」と呼ばれる巨大ドラム洗濯機で、24時間かけて塩と汚れを洗い落としていきます。タイコの内部にはダボと呼ばれる棒状の突起がついており、皮が揉み叩き洗いされるようになっています。
塩漬けされた状態のカチコチに固まっていた皮は、滑らかな生前の表情を取り戻します。

02

背割り

牛一頭分の原皮は約2.5m四方にもなり、そのままでは加工がしづらい為、背骨に沿って皮を左右半分にカットします。栃木レザーでは、皮切り包丁をラインにセットした簡易装置を使用する為、皮をセットしてからカットまで、1秒程でできてしまいます。

牛の背中にはつむじがあり、それを中心の目安とすることで左右対称にカットすることができます。つむじも牛ごとに個性があるのだとか。
くせ毛の牛は、直毛の牛に比べて、毛穴が目立ちやすいなど、プロの目にはこの時点で革になった時のランクがなんとなく見えてくるそう。

03

脱毛

他社では薬品や機械で1〜2日で終わらせてしまう脱毛ですが、栃木レザーでは皮の繊維層を壊さないよう、石灰を溶かした水に1週間浸けて毛を分解除去します。濃度が5段階に分けられたピット槽(プール)に順番ごとに入れ変えます。この手間が、その後の革の柔軟性と持ちに違いを与えます。

04

フレッシング(脂肪除去)

脱毛後、専用のローラー機械に皮を挟み込んで、皮下組織や脂肪、肉塊などを除去します。ここで皮の厚みを調節し、薄い皮と厚い皮に大別されます。濡れた皮は重く、肉や脂肪の臭いもきつい重労働ですが、作業者の方々の動きはキビキビとしており、機械を扱う手元に集中しているようでした。

05

脱灰&酵解

ここでまた別のタイコにかけ、皮に染み込んだ石灰質を取り除きます。石灰はアルカリ性のため、皮を中和することで鞣しの作業をスムーズにします。また、酵素によりタンパク質が分解され、毛穴などが潰れることで銀面(皮革の表面層)を滑らかにする効果もあります。

ここまででやっと鞣しの準備ができました。鞣しの前段階ですでに1週間以上が経過していることがわかります。 ここではまだ皮(スキン)の状態です。皮は生物である為、臭いもあり、重く、一番大変な作業です。
多くのタンナーは前鞣しされた状態の皮を仕入れます。しかし栃木レザーでは前鞣しの段階を丁寧に行います。美しい革を生みだすための土台作りだからです。

皮から革へ

「鞣す」は革を柔らかくすると書きます。皮が柔軟性を持ち、腐敗しない状態になったものを革と言います。
鞣しの技術の歴史は人類とともに進化して来ました。人間は布を発明する前から皮革を衣類や生活の道具に利用しており、初期の人類は皮を燻したり、噛みほぐして鞣していましたが、そのうち草木の渋で鞣すことを覚えていきました。草木の中に含まれているタンニン(渋)と、革のコラーゲン(たんぱく質)が結合し、生物である皮は、半永久の命をもつ革へと変化します。
草木の渋=タンニンを使用して皮を鞣すことから、鞣すは英語で「タンニング」、鞣し業のことを「タンナー」と呼びます。
現在では金属製の化学製品で鞣す「クロム鞣し」が一般的ですが、栃木レザーでは伝統的な「植物タンニン鞣し」のみを行なっています。化学物質を使わずに手間暇をかけた革は堅牢かつ柔軟。
築80年の工場内に、約160ものピット槽と呼ばれるプールが並ぶ景色は圧巻。約60名が働く国内最大の鞣し工房は、自然の艶と変化の美しい唯一無二の革作りを誇りとしています。


06

植物タンニン鞣し

ピット槽はタンニン液の濃度別に4段階に分けられ、濃度の薄い順から1週間ずつ漬けられていきます。鞣しには約1ヶ月かかり、長い物になると半年以上漬け置きされます。タンニン液は何十年も継ぎ足された秘伝のもの。ミモザという花から取れるタンニンで鞣した革は日焼けすると、オレンジ色に焼け、経年変化で美しい飴色へと育っていきます。

07

水絞り

タンニン液から引き上げた革をサミングマシンと呼ばれる機械に通し、しっかりと水分を取り除いていきます。革の端の不要な部分をカットし、革を整形していく作業もここで行われます。

08

加脂

水分をしっかりと抜いた革に油分を与え、柔軟性を与えます。タイコで回し、革に脂を叩きこみます。無骨だった革が、ふっくらもっちりした表情に仕上がります。

加脂に使われる油はなんと魚(タラ)の脂!栃木レザーでは、臭い残りを抑えるために、植物油などを配合した自社開発の油を使用しています。油は触ってみるとサラサラとしており、洗剤のようないい香り。香料などは一切使用しておらず天然の香りというから驚きです。

09

セッター(シワ取り)

セッターというローラー機械を使い、シワを伸ばしていきます。1番セッターで全体的に粗く、2番セッターで均等に革を伸ばしていきます。革の性質によって、柔らかくなるまで加脂とセッターの工程を繰り返します。

10

自然乾燥

革の内部の水分まで乾かすために約10日間、風の通る日陰で自然乾燥させます。この時点で革は1枚20キロ。これを特製の竿に一枚一枚等間隔にかけて干します。軽々とこなす従業員はこの道30年だとか。素早い動きながら間隔を均一に保つ目は真剣で妥協のない姿が印象的でした。

やっと革らしくなってきました。この時点で一部は「素上げ」の革として出荷されます。素上げとは表面を整えたりせず、自然のワイルドな表情を残したままの革。通常製品はここから、染色や表面の仕上げを行なっていきます。 ここまでで工程の半分です。期間は1ヶ月半から長いもので半年以上経過しています。 これほどの手と時間がかけられているとは。革の尊さや製品の価格について改めて考える機会になりました。

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